「衛生面から持ち帰りは全部お断り」

結局、東京五輪の食品ロスはどうだったのか?弁当13万食1億1600万円分以外には?

 

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)さんの記事です!
 
2021年11/24(水) 
 

 

東京五輪が幕を閉じ、人々の記憶の中でもすでに過去のことになっていると思う。だが、今回の東京五輪で「レガシー(遺産)にする」はずだった食品ロスの計測結果は、オリンピック閉幕から3ヶ月以上経つ今も公表されていない。

 

農林水産省の回答は

 

事業系の食品ロスを所轄している農林水産省に尋ねたところ、次の回答だった。

 

オリンピック・パラリンピックの食品ロス削減の取組については、組織委員会において、持続可能性に配慮した運営計画(飲食提供対象者数等の考慮、ポーションコントロール、廃棄物の計量と見える化の実施状況等により評価することを計画)結果をとりまとめた持続可能性大会報告書を作成し、年度末に公表予定とのことです。

 

「年度末」とは2022年3月のことなので、まだ何ヶ月も先の話だ。

 

TBS「報道特集」の回答は

 

東京五輪でボランティア向け弁当が廃棄されていることを最初にスクープしたのはTBS「報道特集」だった。42会場のうちの20会場で、ボランティア向けの弁当が13万食1億1600万円分が処分されていることをつきとめた。だが、これはすべての会場のうち、半分以下に過ぎない。なぜ全部がわからないのかと問うと、番組関係者は、「20会場分は一社が担当していたが、ほかの22会場はバラバラで複数の会社が担当していたため、事実がわからない」とのことだった。

 

番組では、2021年の7月、8月、9月の合計3回特集され、筆者も9月に出演した。最初のスクープ以降、五輪関係者にも緘口令が敷かれたようで、ますます現状把握が難しくなった、という。選手村のビュフェでは食品ロス量が計測されているとの話だったが、深く調べていくと、どうやら廃棄量の計測はしていなかったようだ、と、番組関係者は語っていた。

 

200カ国から来日した海外メディアの食事も余っていた

 

大会では、ボランティア向け弁当、選手村のビュフェのほか、来日する海外メディアのためのケータリングの食材も余った。当初の来日人数から大きく減ったためだ。オーストラリアの分は、フードバンクのセカンドハーベスト・ジャパンに寄付され、他のある国の分は、マルヤス大森町店で販売されているのを、テレビ収録で目にした

 

 

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五輪食品ロス「13万食1億1600万円分」だけじゃない!他にもある ... news.yahoo.co.jp

 

だが、NHKの報道によれば、来日した関係者は200カ国に及ぶ

 

大会組織委員会によりますと、およそ200の国と地域から2000社ほどが来日し、メディア関係者の人数は先月21日の時点で1万6000人余りに上る見通しとなっています。

 

他の国の分はどうなったのか。現時点ではまったくわからず、年度末の報告を待たなければならない、ブラックボックスのままだ。

 

環境配慮の原則「3R」に基づき弁当を減らし、余剰は寄付すべきだったのでは

 

2021年7月27日、TBS「報道特集」によって弁当廃棄が判明した際の記者会見で、組織委員会のスポークスパーソン「廃棄していない。リサイクルしている」と釈明した。

 

だが、環境配慮の原則「3R」に基づけば、リサイクルは優先順位の3番めだ。

 

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3Rの優先順位(筆者作成)

 

最優先の「Reduce」が最も大事で、無観客が発表された7月8日時点で、弁当をつくる数を減らすべきだったのではないだろうか。それでも余ったら、優先順位の2番め「Reuse」に基づき、食べ物が必要な方に配布すべきだったのではないか。契約している事業者が収入減を気にするのだったら、つくる数だけ減らし、契約した金額は変えないという手立てもとれたはずだ。配布する余裕がないといっても、会期中に署名運動を行った皆さんは「会場まで取りに来る」と申し出ていた。

 

北九州市では東京五輪の反省を生かし世界新体操の余剰食品活用

 

北九州市では、東京五輪で大量の食品を処分した反省を生かし、世界新体操で余った食品を活用する取り組みがこの秋に実施されていた。

 

参考:

東京五輪の反省生かせ 世界体操「食品ロス」ゼロ、北九州市の挑戦(毎日新聞、2021/11/6)

 

2016年から東京五輪の準備が始まり、開催まで5年もあったのだから、もっと手立てはあったはずだ。

 

ロンドン五輪は2443t廃棄、食品ロスと闘う東京五輪 日本は「責任、安全、真夏」どう対策

 

*下記の記事は、2020年2月13日付『ロンドン五輪は2443t廃棄、食品ロスと闘う東京五輪 日本は「責任、安全、真夏」どう対策』です。Yahoo!東京五輪ページが2021年9月30日付で閉鎖したと同時に記事が消えてしまったため、復活させて掲載します。

 

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セミナー会場に掲示されたポスター(株式会社office 3.11撮影)

 

東京オリンピックパラリンピック(オリパラ)開催まで半年を切り、運営サイドは「食品ロス」対策と闘っている。2443tもの食品が廃棄されたのは2012年ロンドン大会。日本は真夏の暑さに加え、世界でも高水準の食品安全基準、そして「事業者責任」という事情もあり、このままでは「食品ロスが大量に出ざるを得ない状況」と関係者は話す。大会の飲食関係者、そして世界から多くの人を迎える私たちができることは。

 

2012年ロンドン大会では2,443トンの食品が廃棄

 

過去の五輪の状況を見ていくと、2016年のリオ大会や2012年のロンドン大会では、選手村や会場で食品ロスを減らすための取り組みが実施された。ロンドン大会では持続性の担保を目指し、食に関する指針として“Food Vision”が示され、食品ロス削減やフェアトレードやオーガニック食材の活用を進めた。

そうして食品ロス削減を目指したものの、結果的には2,443トンの食品が廃棄された(発生源:調理時45%、食べ残し34%、保管中21%)。

 

ロンドン大会の食品ロスについて、BBCの公式サイトに長期間載っていた映像が印象に残っている。調理を担当したケータリング会社が、廃棄される大量の食事を撮影した映像だった。ロンドン大会の選手村では1日5回の食事が提供され、ある一定時間で処分されたという。

 

ロンドンと東京は、開催時期はほぼ同じでも、最高気温は東京の方が高い。2019年8月の平均最高気温では約8度も東京の方が高く(英・ヒースロー空港25.1度、東京32.8度)、食品調理により難しい環境になっている。

 

「食品ロス量の計測を東京オリパラのレガシーとする」

 

2020年に開催される東京大会。はたして食品ロスを減らすことができるのだろうか。

 

1月27日、東京都内で農林水産省主催「大規模スポーツイベントに向けた食品ロス削減セミナー」が開催され、多くの人が集まった。

 

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2020年1月27日、農林水産省主催で開催された「大規模スポーツイベントに向けた食品ロス削減セミナー」で講演する崎田裕子氏(撮影:株式会社office 3.11)

 

会期期間が32日間におよぶ東京大会では、資源管理目標の一番目に「食品ロス削減」が挙げられている。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「資源管理WG(ワーキンググループ)」座長の崎田裕子氏曰く「作った料理は2時間で戻されるため、食品ロスが大量に出ざるを得ない状況」だそうだ。それでもICT技術を駆使しての需要(飲食提供数)予測や、一人あたりのポーションコントロール(提供量の調整)、関係者の意識啓発、食品廃棄物の計量など、食品ロス削減を目指すため、飲食を担当する企業が考えている真っ最中とのこと。崎田氏は、ロンドン大会では食料廃棄中の食品ロス(可食部)量が明確でなかったことに触れ、「食品ロス量の計測をしっかりするだけでも東京(オリパラ)のレガシー(遺産)になる」と語った。

 

日本の「衛生上の理由」がネックに

 

東京大会で調理を担当するのはエームサービス株式会社だ。過去に開催された複数の大会で、幅広い国籍の選手に対応できるノウハウを蓄積している。選手やスタッフなどへ1日合計およそ59,500食が提供されるうち、45,000食が提供されるメインダイニングではビュフェスタイルで食事を提供するとのこと。

 

2019年に開催された「原宿食サミット」の「食とオリンピック」トークセッションで、前参議院議員の松田公太さんは「かなりのフードロスが出ますよね。どう処理するか、どうやってリサイクルにもっていくか。それもすごく重要なことです。そこから、まさに日本の食を世界に示していけるんじゃないでしょうか。」と問うた。東京都議会議員白戸太朗さんは「余った料理が賞味期限を迎える前に、一般の人に食べてもらったらどうかと提案したのですが、それは却下になりました。」と語っている。

 

拙著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(2016)で指摘した通り、東京大会では、食事が頻繁に作られ、余剰は廃棄されると見ている。開催期間が真夏であることに加え、日本では、日常の飲食店の持ち帰りですら、大半の店で「衛生上の理由から」許可されない。「保健所が厳しい」と断る店も多い。調理済み食品の再利用や寄付は、ほとんどと言っていいほど例を見ない。

 

日本は自己責任より「事業者責任」

 

ポイントとなる「持ち帰り」の日本の現状をもう少し見てみよう。2017年5月、農林水産省消費者庁環境省厚生労働省の4省庁が、飲食店で食べ残しの持ち帰りをする際の、飲食店・消費者双方の留意事項を発表した。消費者が持ち帰る場合は「自己責任で」と明記してある。

 

だが、持ち帰りを積極的に許容している飲食店は浸透していない。筆者も、冬に中華料理店で頼んだら「保健所がうるさいから」と断られ立食パーティでは「衛生面から持ち帰りは全部お断り」と言われた。

 

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2019年12月28日、東京都23区内で開催されたビュフェで余った料理。フランスパンも大量に余っていたが、店に聞いたら「衛生上の理由から持ち帰りは全てお断り」と言われた(撮影:井出留美

 

日本では、調理済み食品どころか、賞味期限の長い加工食品の余剰活用すらしづらい環境にある。食品企業はよかれと思って余剰食品を寄付したことで経営リスクを負うぐらいなら捨てた方がいいと考える。日常的に余剰食品を活かす環境が整っていないのに、寄付せず廃棄処分する企業を責めることはできないだろう。いわんやイベントをや。

 

以下略

 

 

 

ブラジル

リオ選手村のフードロスに45人のシェフ立ち上がる

2016.08.09

 

世界各国のシェフ45人がオリンピック選手村のフードロスを解決するために立ち上がった。選手村で廃棄される食品から栄養のある料理を作り、貧しい人やホームレスに配る。プロジェクト名「Reffetto-Rio」は、イタリア語で食堂を意味するrefettorioと開催地リオを掛けて名付けられた。45人はボランティアでプロジェクトに参加し、若者や貧困層の人々に向けて料理教室や栄養学の講座も開催する予定だ。

 

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国連食糧農業機関の会見。マッシモ・ボットゥーラ氏(左) (C)FAO/Alessia Pierdomenico

 

2016年世界のベストレストラン50で1位に選ばれた「オステリア・フランチェスカーナ」(イタリア・モデナ)のシェフ マッシモ・ボットゥーラ氏は7月8日、オリンピック選手村で廃棄される食品を使った料理を貧困層に提供すると発表した。

 

選手村で1日に提供される食事は最大で6万食といわれ、食材の量に換算すると約210トンに及ぶ。同プロジェクトは期間中に12トンほどが余ると予想しており、1日に100食を近隣に暮らす貧困層の人々に配る

 

ボットゥーラ氏が率いるシェフ集団のNPO「Food for Soul」は2015年のミラノ国際博覧会をきっかけに活動を始めた。「地球に食料を、生命にエネルギーを」がテーマの同万博で、廃棄食材を利用した料理を出すレストランを開き、子供やホームレスに提供した。チャリティーではなく文化として、食を通して食品廃棄と飢餓問題を世の中に問うことを活動目的にしている。

 

世界で生産される食品の3分の1が廃棄されている。日本の食品ロスは、年間632万トンに達し、世界の食糧援助量の約2倍に相当する。

 

食品自体が廃棄されるのも問題だが、生産されて店頭に並ぶまでに消費される自然資源やエネルギーを考えるとフードロス問題は深刻だ。国連食糧農業機関(FAO)の最新調査によると、世界の廃棄食品が出す二酸化炭素の量を一つの国が出していると想定すると、中国やアメリカに次ぐ世界三番目の量になる。

 

国際的には、今年5月に富山で開催されたG7環境大臣会合において、2030年までに1人当たりの食品廃棄量を半分に減らすよう各国が取り組むことで合意している。

 

小松 遥香(こまつ・はるか)さんの記事です!

オルタナ編集部 。アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。趣味は、大相撲観戦と美味しいものを食べること。

政府政権に福祉・奉仕の精神を持たない悪魔の集団!