ニューヨークを中心に変動する「ガソリン価格」

「ドライブする人、増えてないのに…」高騰するガソリン価格、日本が振り回されるウラ事情

 

2021年12/12(日)

 

 

ガソリン価格の高騰が続いています。日本国内でのガソリン需要が急増しているとは思えませんが、なぜこのような現象が起こるのでしょうか? それは、ガソリン価格が決定するまでのプロセスを知ることで、納得することができます。ガソリンの取引がどのように行われ、経済にどのような影響を及ぼしているのか、経済評論家の塚崎公義氏が平易に解説します。

 

ニューヨークを中心に変動する「ガソリン価格」

 

ガソリン価格が高いですね。国内でドライブに行く人が急に増えたとも思われませんが、なぜなのでしょうか。それは、ガソリンの価格が国内ではなく「ニューヨークで動いているから」なのです。

 

ガソリンの価格は「原油を輸入するコスト」「運搬するコスト」「精製してガソリンスタンドで販売するコスト」「ガソリンスタンドの適正利潤」「ガソリン税」等の合計で決まります。これらのうち大きく動くのは原油の輸入コストであり、運搬コスト等々はそれほど大きく動きません。

 

原油価格は、ニューヨークの市場で決まります。ガソリンスタンドを運営している日本の石油会社は、ニューヨークの市場で決まった値段を産油国に支払って原油を購入するわけですが、原油価格はドル建てで決まっているので、銀行でドルを買って支払うことになります。その際のドルの値段もニューヨークで動いているのです。

 

原油価格は「先物取引」で決まる

 

原油価格は、先物取引で決まります。「数ヵ月先に代金を受け取って原油を渡す(原油を受け取って代金を支払う)」という契約をするのです。原油を売りたい産油国原油を買いたい石油会社等が活発に取引するわけです。

 

加えて、投機家も参戦します。数ヵ月後に原油価格が値上がりしていそうだと思った投機家が原油先物を買いますから、先物価格は上昇します。投機家は石油を貯蔵する設備を持っていませんが、期日までに売却すればいいので、気にする必要はありません。

 

さらにいえば、原油価格が下がると思えば、原油を持っていなくても先物を売っておき、期日までに買い戻せば問題ないわけです。したがって、世界中の投機家たちが原油価格を巡って活発な取引をしていて、価格形成に重要な役割を果たしているわけです。

 

そうなると、産油国原油価格を釣り上げるために協調減産しそうだ」という思惑が投機家の買いを誘い、実際の減産の効果以上に原油価格が上昇する、といったことも起こり得ます。だから原油価格は比較的大幅な変動を見せるわけです。

 

ちなみに、原油の取引が産油国ではなくニューヨークで行われているのは、最初に原油の売り買いをする少数の人がニューヨークに集まって取引をしたため、次に原油を売りたい人が買い手を探しにニューヨークへ来て、買いたい人も売り手を探してニューヨークへ来て…ということだったのかもしれませんね。そうして、世界中で原油の取引をしたい人がニューヨークに集まるようになった、というわけですね。

 

このような現象はさまざまな場所で起きており、「集積のメリット」と呼ばれています。人々が集まると便利なので、さらに多くの人が集まる、という現象です。たとえば東京一極集中が進むのも、働きたい人が仕事を探しに東京に来るとともに、企業が労働者を探しに東京に来るから、ということなのでしょう。

 

為替レートだって「美人投票」…投機の影響は甚大

 

為替レート、具体的にはドルの値段は、輸出企業のドル売りと輸入企業のドル買いの注文が一致するところで決まる、と考える人が多いかもしれませんが、実際には、米国債や米国株を買うためにドルを買う人も多いですし、なにより投機家たちがドルを活発に売り買いしているのです。

 

米国の景気がいいと米国株が好調となって米国株を買う人が増える、米国の金利が上昇するので米国債を買う人が増える…というわけで、米国の景気好調はドル高要因だといわれています。したがって、投機家たちは米国の景気を予想して投機をしているわけです。

 

さら重要なのは、米国の金融政策です。米国が金融緩和をするとドルが売られ、米国が金融引き締めをするとドルが買われるのです。なぜか、という理屈が重要なのではなく、「みんなが米国の金融政策を予想して売り買いしているので、金融引き締めの噂が出ただけでドル買い注文が増えてドルが実際に高くなるのだ」ということが重要なわけですね。為替は株と並んで「美人投票」の世界ですから。

 

ちなみに美人投票というのは経済学者ケインズの言葉で、「皆が値上がりすると思うと、皆が買い注文を出すので実際に値上がりする。したがって、儲けようと思ったらなにが真実かを追求するより、人々がなにを考えているのかを考えなさい」といった意味になります。長期投資には使えませんが、短期投資をする際には極めて重要な考え方です。

 

なお、日本の景気や金融政策より米国の景気や金融政策でドルが動くのは、投機家たちが日本より米国に注目しているからです。日本の通貨の価値を決めるのだから、日本に注目すべきだ、などと理屈をいっていても、美人投票の世界では儲けることができないのです。だから為替レートはニューヨークで動くのですね。

 

国内のガソリン価格も、需給の関係性で決まっている!

 

経済学の大原則は「価格は需要と供給が一致するところに決まる」というものです。それなのに、日本国内のガソリン価格が「国内の需給の関係で決まっているわけではない」のだとしたら、一体どんな理由で決まっているのでしょうか。

 

実は、日本国内のガソリン価格も、やはり需要と供給の一致するところに決まっているのです。売り手による供給が「価格を先に決めて、需要がある分だけ売る」というものだから、価格が「原油輸入コストと運搬コスト等々の合計」と一致するというわけですね。

 

野菜等であれば、収穫した分を売り切らないと腐ってしまうので、需要が少なければ農家は値下げをしても売ろうとしますが、ガソリンは腐らないので、ガソリンスタンドは需要が少なくても値下げをせず、あらかじめ決めた値段で買いたいという客にのみ販売している、というわけですね。

 

今回は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、わかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義 経済評論家さんの記事でした!