SWIFT遮断やこれに付随する一連の金融制裁の究極的な狙いはロシア国民のプーチン政権からの離反

実は、ロシア中銀資産を大量に保管する日銀が踏み切った取引禁止措置の奥の手

2022年3/2(水) 

 

唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)さんの記事です!

 

news.yahoo.co.jp

 

■ 日銀が保管しているロシア中銀資産とは

 

 2月28日夕、日本政府がロシア中銀(CBR)との取引を制限する制裁を表明したことにあわせ、日本銀行とCBRの取引禁止の方針が表明された。後述するように、日銀がCBRから預かる円建て資産は相応の規模に達している。仮に、この政府決定がなかった場合、CBRから円建て資産の引き出し要求を受けても日銀は拒絶できなかった可能性がある。日銀はそうした政治判断能力を持ち合わせていない。

 

 同決定を受けた2月28日の日本経済新聞は日銀に預託されるCBR所有の資産に関し、「2021年時点で4兆~5兆円規模」と報じている。これをどう試算したのかは書かれていないが、概ね正しいと考えられる。日銀が毎週発表する「営業毎旬報告」の負債サイドには「その他預金」という項目があり、注釈で「外国中央銀行等の預金」と明記されている。これが2月22日時点で25.2兆円ある。

 

ここでロシアに目を移す。

 

 2021年6月末時点でロシアの外貨準備は5853億ドル、このうち5.7%が円ということが判明している(図表1)。厳密には「円」という単独項目で発表されてはいないが、「その他」通貨の内訳としてCBRの報告書『ロシア中央銀行 外貨・金運用報告』で数字に言及がある。つまり、333.6億ドル(≒5853億ドル×5.7%)がロシアの外貨準備における円建て資産である(一般的には、日本国債が多くを占めると思われる)。

 

 これは1ドル115円換算で約3.8兆円なので日経報道の4~5兆円という数字に近い。日銀に預託された「外国中央銀行等の預金」が25.2兆円なのだから、CBR所有分(約3.8兆円)は約15%になる。これがロシア単独であることを思えば、相応に大きいと言える。

 

■ 2017年以降、米国から資産を移していたロシア

 

 『ロシア中央銀行 外貨・金運用報告』では、「外貨および金の場所別内訳」という珍しいデータも公表されている。これはCBR保有の外貨建て資産に関し、取引相手または証券発行体の登記場所で分別したデータである。

 

 これによると日本は10.0%で米国(6.6%)、英国(4.5%)、ドイツ(9.5%)よりも大きい。一方、中国(13.8%)やフランス(12.2%)よりは小さい。直感的に「ロシアにとって安全(無害)そうな場所」が好まれているという印象を持つ。これは「円に限らず外貨も含め日本に登記されているものが10.0%(約585億ドル≒約6.7兆円)存在する」という話である。

 

 2017年9月以降からの変化を見ると、やはり「米国を避けて中国や日本へ」という資産の動きが透けて見える。

 

 振り返ってみると、2017年9月時点では中国や日本に登記されていた外貨資産は概ねゼロ%である一方、米国が30%以上を占めていた。過去5年でCBRは明確な意図を持って米国を避け、中国にシフトしたというのはある程度事実なのだろう(図表2)。

 

 現在のような状況を見越して、少しずつ外貨準備の非ドル化を進めてきた可能性はある。しかし、今のロシアの窮地を救うほど、こうしたリバランスは間に合わなかったというのが実情であろう。

 

■ ロシア中銀を封じ込めた取引停止とSWIFT遮断

 

 政府・日銀による制裁が発表された2月28日には、CBRが政策金利を従来の9.5%から20%へ大幅に引き上げるという動きもあった。こうした大幅利上げは、通貨防衛に際してCBRが使える手段として決済ルート(端的には為替介入)が封じられているため、金利ルートしか使えなくなっていることの証左である。

 

しかし、これも無駄な抵抗だろう。

 

 既報の通り、ロシア国内では現金を求めてATMに列ができ、ロシアルーブルを現物や外貨に交換しようという動きが活発化しているという。金利が高いからと言って、この動きを考え直すロシア国民は多くないだろう。「金融版の兵糧攻め」であるSWIFT遮断の結末は通貨危機と相場が決まっており、解除の見通しが立たない以上金利水準に拘わらずロシアルーブルが買われる理由はない。

 

 もちろん、貿易取引まで封じられているわけではないので、外貨を稼ぐ手段がないわけではない。だが、送金や為替変動のリスクが膨れ上がっているロシア企業と取引に応じる企業は今後ますます減ってくるだろう。ロシア国内への対内投資(資本取引)など期待すべくもない。

 

 結果、当面の間、「ロシアルーブル買い・外貨売り」が発生する理由がない。理屈ではなく、需給がロシアルーブル安を肯定する状況である。SWIFT遮断が解除されるにはプーチン大統領が侵攻を止めるしかあるまい。

 

 今のような状況で利上げしても通貨安は止まらず、それゆえにインフレ高進は続き、逆に金利によって国内の消費・投資意欲も毀損されるはずである。要するに、利上げは自傷行為にしかならず、ロシア国民が困窮するだけだろう。

 

■ ロシア国民の困窮はプーチン大統領の行動変容につながるか? 

 

 このような状況だからこそ潤沢な外貨準備を用いた為替介入でロシアルーブル相場を支えるという決済ルートでの通貨防衛が奏功するはずだが、SWIFT遮断を筆頭に制裁の包囲網が築かれる中では身動きが取れない。

 

 こうした状況を踏まえると、SWIFT遮断やこれに付随する一連の金融制裁の究極的な狙いはロシア国民のプーチン政権からの離反と言って差し支えないだろう。その結果としてプーチン大統領に行動変容を強いるというのが西側陣営の本音と言える。

唐鎌 大輔さんの記事でした!

 

 

 

 

 

いずれにしても、迷惑を被るのは国民!

 

 

プーチン氏の資産を凍結できるか 「隠し財産23兆円」で影の富豪世界一? 周辺人物にも金脈見え隠れ 経済制裁では侵攻「あきらめない」

2022.3/2

 

www.zakzak.co.jp

 

 

 

SWIFTからロシア7銀行排除 EU合意、最大手含まず

2022.3/2

 

www.sankeibiz.jp

 

ブルームバーグ通信は1日、ウクライナに侵攻したロシアへの制裁として、国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアの銀行7行を排除することで欧州連合(EU)が合意したと報じた。送金の国際枠組みから締め出すことになり、ロシアの貿易や送金を阻害して経済的な打撃を与える狙いがある。

 

排除の対象に、ロシア最大手ズベルバンクや、ガス大手ガスプロムに関係するガスプロムバンクは含まれていない。除外すればエネルギー供給の決済など、欧州経済への影響が大きいと判断したとみられる。

 

対象となったのはロシア第2位のVTB銀行やバンク・ロシヤなど。米財務省によると、VTB銀行はロシアの全銀行資産の20%近くを保有する。米国による取引制限の制裁対象にも指定されている。

 

SWIFTは各国の金融機関同士の取引に必要な通信ネットワークの運営を担う。EUの判断を受けて、SWIFTが正式決定するとみられる。米国やEUは2月26日に公表した共同声明で、ロシアの一部銀行をSWIFTから排除すると表明していた。(共同)