「政権合意(政権協力で合意)」という言葉を使われ、政権交代を一緒にやるんだというニュアンスを共産党がいろんなところで言われた。

財務大臣城島光力氏が危惧 「連合」とのギクシャクは「野党の努力が足りない」

2022/05/02

城島光力(元財務大臣、元衆議院議員)さんの記事です!

www.nikkan-gendai.com

 

 昨秋の衆院選以降、立憲民主党国民民主党、両党を支援してきた労働組合「連合」の関係が揺れている。連合は共産党との共闘に難色を示す一方で、自民党に接近しているようにも見える。一体、どうなっているのか。これで参院選を戦えるのか──。民間労組委員長から衆院議員となり、連合と野党の双方を熟知する元財務大臣に、現状をどう見ているのか聞いた。

 

共産党とは候補者調整や一本化なら問題なかった

 

 ──連合がずっと支援してきた野党との関係でギクシャクしています。

 

 国民も立憲も連合も頑張ってほしいので、複雑な心境です。選挙前だからそれぞれの足を引っ張るようなことは言いたくないけれど、「じれったいな」というのが率直なところですね。

 

 ──連合の芳野会長が共産党も含めた「野党共闘」を批判していることには?

 

 共産党との関係について、連合がそこまで言っていいのか、ということだと思いますが、僕が親しくしていた鷲尾さん以降、知りうる限り、連合会長は政党との間で、組合としての矩をこえないよう、ものすごく意識されてきたことは間違いない。今の芳野会長だって、そうだと思います。昨秋の衆院選は、やはりちょっと異常だった。市民連合が間に入った野党4党の合意があり、それに基づいて立憲の枝野さんは「限定的な閣外からの協力」と、共産党との関係を整理されました。

「閣外」とか「閣内」とか、もうそのこと自体が、今までと比べかなり踏み込んでいるな、と。候補者を調整するとか、一本化を目指すという表現なら、全く違和感なかったと思うんです。

 

 ──「閣外からの協力」がそこまで強烈だったのですか。

 

 違和感が強かったのが、共産党の志位さん(委員長)がかなり踏み込まれたことです。党内に向けては仕方なかったのかもしれませんが、「政権合意(政権協力で合意)」という言葉を使われ、政権交代を一緒にやるんだというニュアンスを共産党がいろんなところで言われた。その結果、僕が知る限りでも、いくつかの立憲の選挙区では、選対本部に共産党の人が入ってくるとか、ビラに共産党の政策を入れてくれとかいうような話があった。ただでさえ抵抗感があるところへ持ってきてですから、やはり連合としても看過できなかったんだろうと思います。

 

 ──このままでは野党は参院選も厳しい。立憲と国民も、もはや兄弟政党とはいえない状況です。

 

 立憲ができるまでの過程を振り返ると、民主党政権が崩壊し、その直前に小沢グループが離党して新党をつくり分裂。一方、民主党は途中で維新の会と合流し民進党ができた。その後、希望の党ができ、小池都知事の排除発言で立憲ができ、一部は無所属で戦った。それはもうバラバラです。連合としては既にその段階で、支持してきた政党が分裂して戦うことになり、相当対応が難しかっただろうと思います。僕が印象深いのは、笹森会長と高木会長で、特に高木会長は2007年の参院選に向けて、激戦区を中心に小沢さん(当時、民主党代表)とタッグを組んで回られました。各産別(組合)のトップと会って、飲みながらも含めて。連合と当時の民主党はトップ同士が一体となって次の政権交代へ向けて燃えていた。野党が3つにも4つにも分かれていくと、そういう体制が取れないから、連合としてもじれったかったと思います。

 

──つまり、そこで政党に対し、少し距離ができた?

 

立憲について言うと、ちょっと連合を刺激したと思うのは、昨夏の都議選の後の(安住)国対委員長(当時)の発言。「選挙においては、リアルパワーは共産党だ」と言ったのです。連合の中でも民間労組あたりは、「立憲はそんなに連合に対して重きを置いていないんじゃないか」という感触をうっすらと持っていたわけですよ。そこへあの発言。「やっぱりそうか」となった。政権交代前夜あたりの、政治と労組が車の両輪で非常にうまく回っていた時と比べ、ほとんど回らなくなってるという状況が、この1、2年じゃないですか。政治と労組が、お互いまどろっこしくて、不完全燃焼な状況じゃないかな。

 

 ──そうすると、原因は労組ではなく、政党の側にある?

 

 働く人たちの代表を、政策的にも重要だとするなら、少なくとも良い関係を保つということを真剣に考える必要があるんじゃないかと思う。もちろん迎合ではなく。

 

──政党の努力が足りない?

 

 と、僕は思いますね。そこは自民党の方がうまい。最近も麻生さん(副総裁)、小渕優子さん(組織運動本部長)が芳野会長と会食してましたよね。先日は、芳野会長を自民党の会議にも呼んだ。おそらく戦略的に動いているんだと思う。ある面、見事ですよ。だから、野党も個人的に動くだけじゃなく、組織として戦略的に動くべきじゃないか。いろいろギクシャクはあっても、連合との関係について、点ではなく、面で戦略を考えるべきだと思う。

 

■選挙が近いタイミングでの会食は控えたほうがいい

 

──芳野会長と自民党の接近が波紋を呼んでいます。

 

 芳野さんになって急に増えているわけでもないんですよ。制度や政策についての意見交換は、これまでも共産党以外の各政党とやってきた。歴代の連合会長も自民党の幹部と会談を重ねてきてることは間違いない。ただ、参院選の投開票日が7月10日と言われている中での会食は、タイミングとしては少し控えた方がいいとは思います。連合と野党が疎遠になっているんじゃないかというメディアの報道が多いので、どうしてもニュースになりやすい。ニュースになれば、自民党にプラスになるだけで、連合が支援している立憲や国民にとっては、決してプラスじゃない。組合員が「連合も自民党と親しくなっているのか」なんて思ったら、じゃあいいか、みたいな空気になるかもしれないじゃないですか。

 

自民党支持は自己否定、あり得ない

 

 ──連合がまさか自民党支援になることはないですよね?

 

 連合の基本的な政治方針については、1990年代に連合ができる時に、労働組合が労働者の集まりであると同時に、ある種の社会的な存在であるという立場でずいぶん議論をしました。与野党が切磋琢磨し、時々政権が代わることによって、政界の大掃除ができる、ということが何よりも大事じゃないかと。だから、連合としては、基本ベースには、政権交代可能な政治状況をつくり、その一翼を担おうというのがあるわけです。それはいまも変わっていません。いま立憲と国民の2つに分かれているのは、残念という以外にないです。

 

 ──国民民主党は新年度予算案に賛成し、むしろ与党に近づいているように思いますが。

 

 びっくりしました。玉木代表は、小さい政党が何かの政策を実現するには、思い切ったことをしないと実現できないと言っていましたが、予算案は他の法案と違って国家像をベースにした骨格ですから、野党の中でそれを理解してもらうのは難しい。彼の発言を聞くと、その心意気やよし。ただ、相撲で言うと、本当に真正面から体当たりでいって、押し切れるのかどうか。結果的には抱きつきで終わらないのか。老練な自民党に利用されないか心配しています。

 

 ──野党と言えるのかどうかは別として、維新の存在感が大きくなってきていることについては?

 

 まさか参院選で野党第1党になるとは思わないけれど、政党支持率では立憲といい勝負。今後、維新をどう位置づけるか難しくなってくるでしょう。なぜ労働組合自民党を支持できないかというと、雇用政策を見れば一目瞭然。働く人たちをどういう目線で見ているのかがポイントで、維新の衆院選公約を見たら、解雇の自由化が堂々と出ててちょっとびっくりした。解雇の自由化は、僕が現職の時に命がけで阻止した法案です。使用者から見て、使い勝手のいい雇用を求めてきたのが、今までの自民党の流れですよ。象徴的なのが派遣労働。非正規労働が4割を占めるようになってしまって、民主党政権の時に、派遣労働についてやっと少し規制をかけた。だから雇用政策を見れば、維新は現状では労働組合の視野には入ってきていないと思います。ましてや、連合が自民党を支持することは、自己否定につながるからあり得ませんよ。

 

(聞き手=小塚かおる/日刊ゲンダイ

 

城島光力(じょうじま・こうりき) 1947年福岡県生まれ。東大農学部卒後、味の素に入社し、中央研究所配属。味の素労組委員長や食品産業労組協議会議長を経て、96年の衆院選新進党から出馬(比例東京ブロック)し初当選。新進党解党後は旧民社党系議員を中心に結成された新党友愛に参加。98年に同党が民主党に合流。民主党では東京13区、神奈川10区から出馬し、当選4回。12年10月、野田内閣で財務大臣。12年と14年の衆院選で落選し、政界引退。