5人に1人が「年収200万円以下」…深刻な収入格差のウラにある「思考停止」という病
2022年11月15日(火)
平均年収443万円の暮らしとはどんなものだろうか。
この30年、日本はなぜ衰退・停滞してしまったのか。
ジャーナリスト・小林美希さんが、注目の新刊『年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活』で多くの人に伝えたいメッセージとは?
年収200万円以下が300万人増加
私が社会人になった2000年は、バブル経済が崩壊したあとの
「失われた10年」と呼ばれた時代だった。経済対策も雇用対策も、ほとんどの問題が「先送り」された。そのまま政府は安易な規制緩和で不況対策をしのぐふりをした。
そして、2008年のリーマンショックで「失われた20年」になった。官製相場のアベノミクスや外国人観光客のインバウンドで、見せかけの景気回復が訪れると、日本は、またも根本的な問題から目を背けた。今、新型コロナウイルスによる景気後退の「コロナショック」で「失われた30年」に突入している。
雇用をはじめとした規制緩和は、着実に収入の差を作り出した。
国税庁の調査から2000年と2021年の年収を比べると、年収200万円以下は824万7000人(構成比18.4%)から1126万2000人(同21.4%)へと増えている。定年延長や高齢の労働者が増えていることも一因となるだろうが、低所得者は確実に増えている。
一方、年収2000万円以上の高額所得者を比べると、17万8000人(同0.4%)から30万2000人(同0.6%)へと増えている。この格差を当たり前のように受け入れてしまって、いいのだろうか。
「思考停止」状態を脱するには
私たちは日々の生活で精いっぱいになり、考える余裕をなくしている。私たちが「思考停止」状態に陥ることは、為政者や経営者にとって都合がいい。どんどん一部の利益にしかならない政治になり、私たちはますます考える余裕をなくしていく。
そのなかでは、何か強そうに見える、閉塞感を打ち砕いてくれそう、自分の得になりそう──そんなフレーズに飛びついてしまいがちで、選挙結果やSNSのトレンドに現れる。それは、日本経済が目先の利益を求めて人件費を削り、人を大事にしない社会を作り上げた結果なのだろう。今、スーパーでだけでなく、多くの人が“割安”で“自分にとって得”なものを求めている。人間のものさしが、短いものしかはかることができなくなっている。
社会全体のことを考えなければ、不利益が予想以上に大きくなって自分に返ってくる。分かっているけど、自分ひとりで何かができるわけではないと思う。それが、私たちが抱える漠然とした不安の本当の正体なのではないか。私たちが今、どういう社会に生きているかを知り、そこから一人ひとりが考えていかないと、日本は完全に沈没してしまうだろう。
『年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活』を手にし、どこか共感し、社会の矛盾を感じる人がいれば、そこから社会全体を覆う思考停止状態を脱することができるのではないか。30年、40年にわたって作り上げられた格差を生み出す構造問題があることを改めて振り返り、客観的に今の自分の生活を見つめ直したとき、「あれ? やっぱり何かおかしくないか」と思うことが、新たな始まりとなるはずだ。