スペースジェット開発中止で問われる267機の責任 特集・機体メーカーとしての三菱重工
2023年02月09日(木)
スペースジェット開発中止で問われる267機の責任 特集・機体メーカーとしての三菱重工(Aviation Wire) - Yahoo!ニュース
「機体を納入できなかったことは大変申し訳なかった」。三菱スペースジェット(旧MRJ)の開発中止を正式発表した2023年2月7日の2022年度第3四半期決算会見で、三菱重工業(7011)の泉澤清次社長はこう陳謝した。当初は泉澤社長の出席は予定されておらず、当日朝に急きょ決まった。
国が機体の安全性を証明する「型式証明(TC)」を取得しても事業として成立が難しく、取得費用も今後数年間で数千億円規模と膨大になることが見込まれることから、三菱重工はスペースジェットの開発断念を決めた。
7日時点の総受注は267機で、このうち確定受注は153機、オプション(仮契約)と購入権は114機。一時は7社から計427機を受注し、うち確定が約半数の233機で、残りはオプションが170機、購入権が24機だった。今後20年間で5000機が見込まれるリージョナルジェット機市場のうち半分を目指すとしていたが、確定受注はその6%だった。
◆初の失注は2018年
これまでの受注状況を振り返ると、最初のキャンセルは経営危機に陥った米イースタン航空の確定20機、購入権20機の計40機で、2018年1月に明らかになった(関連記事1)。2019年10月31日には、2009年に覚書を結び翌2010年に正式契約を結んだ米トランス・ステーツ・ホールディングス(TSH)が確定50機とオプション50機の最大100機をキャンセルし、受注残を大きく減らした(関連記事2)。
2020年10月30日の「一旦立ち止まる」と独特の表現による開発凍結後は、米国の航空機リース会社エアロリース・アビエーションとの契約が同年12月末で終わり、確定10機とオプション10機の最大20機のキャンセルが生じた(関連記事3)。これにより総受注は267機となり、7日に開発中止を正式発表するまで変化はなかった。
スペースジェットは、2008年3月27日に持株会社化前の全日本空輸(ANA/NH)から確定15機とオプション10機の最大25機を受注して事業化。2014年8月28日には、日本航空(JAL/JL、9201)から32機すべてを確定で受注した。
当初の納期は2013年だったが、その後2014年4-6月期、2015年度の半ば以降、2017年4-6月期、2018年中ごろ、2020年半ばと延期を重ね、2020年2月6日には6度目の延期が発表されて2021年度以降としていたが、ついに未完の航空機となった。
◆採用にも影響
すでに開発費は15年間で総額1兆円を超えるとも言われているが、泉澤社長は「この場では控える」と明言を避けた。今後は航空会社などとの違約金交渉が本格化するが、「契約内容でもあるのでお答えを控える」(泉澤社長)と違約金の交渉についても明らかにしなかった。
ANAを傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)は、度重なる納入遅延により代替機を手配済み。ボンバルディア(現デ・ハビランド・カナダ)DHC-8-Q400型機(1クラス74席)を2017年度に3機導入し、その後ボーイング737-800型機をリースで4機導入するなど、数年前からスペースジェットの納入が計画通りに始まらないことを織り込んで、機材発注など経営計画を立てている。
JALの場合、32機すべてが確定発注でANAの15機よりも17機多い。2014年の発注当時は2001年就航のボンバルディアCRJ200(1クラス50席)と、2008年就航のエンブラエル170(E170、76席)を子会社のジェイエア(JAR/XM)が運航していた。これをE170とエンブラエル190(E190、2クラス95席)の2機種でいったんエンブラエル機に統一し、その上でスペースジェットを導入するようにした。通常、旅客機は20年程度運航するケースが多く、E170の退役が始まるのは2028年ごろとみられる。
開発中止は代替機の確保や違約金で済む話でもない。ANAグループでスペースジェットを運航予定だったANAウイングス(AKX/EH)では、スペースジェットがパイロット確保で重要な役割を果たしていた。しかし、6度目の延期が発表されたころには他社へ転職する人も出ており、金銭による補償だけで済む問題ではなくなっている。
スペースジェットが就航していれば、営業面でも採用面でも有効活用できたはずだ。これはANAウイングスとジェイエアに共通するものだろう。
しかし、三菱側がその重要性をどの程度理解しているかは、7日の泉澤社長の答えからは不透明なままだった。実際、泉澤社長のあいさつでは「開発中止の判断に至ったことは大変残念」との言葉はあったものの、記事冒頭の陳謝は私が質問して初めて出た言葉だったからだ。
このタイミングで開発中止を決定したことについて、泉澤社長は「4月以降の新体制を考えると、あるタイミングできちっとした方が良いと考えた」と説明する。開発中止が正式決定した今、試験機の完成度を誇るだけでなく、機体メーカーとして航空会社などの顧客に寄り添う姿勢が必要ではないだろうか。
顧客と真摯に向き合えるかは、わが国の航空機産業を今後発展させていく上でも重要な課題といえるだろう。
Tadayuki YOSHIKAWAさんの記事でした!
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