「機銃を使った“組んずほぐれつ”の空中戦」

 

 

 

 

 

 

 

なぜまだ戦闘機の機銃は残る? 超音速飛行&ミサイルの時代にアナログ装備も必要なのか

 

2021年11/9(火)

 

対空ミサイルも実用化されたのに

 

 多くの戦闘機には、長いあいだ「機関銃(砲)」が備わっています。この機構は、先の大戦のプロペラ戦闘機から装備が始まったものですが、いまでも健在です。しかし戦闘機のスペックは段違いに上がっており、いまや、飛行速度が音速をゆうに超えることも珍しくないジェット戦闘機の時代となっています。

 

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 なぜ兵器も進化し、戦闘機の飛行スピードも飛びながら射撃するのが困難なほど高速化しているのに、「機関銃(砲)」装備は残っているのでしょうか。

 

 事実、ジェット機の時代になり、機体の速度も速くなり、対空ミサイルも実用化された時代には、一度「機関銃(砲)を搭載する必要が無いのではないか」という議論がありました。事実、F-4なども初期の海軍型では機関砲を搭載していないモデルもあります。

 

 ただその後、ジェット戦闘機においても、機関砲を再び搭載するように。たとえば、空軍型のF-4C/Dでは機関砲を搭載していませんでしたが、運用上胴体下面に機銃ポッドを装備F-4Eでは機首下面に20mm機関砲を搭載しています。そして現代でも「機関銃(砲)を備えたジェット戦闘機」が主流となっており、たとえば最新型のF-35では、機内装備、もしくは機関砲ポッドを使用できます。

 

 これには、航空機に搭載する機銃(砲)の歴史が関係しています。そこから、ジェット戦闘機でも搭載が続けられている理由も見えてきます。

 

 時代をさかのぼり、第一次世界大戦当初の軍用機は、偵察機として役割がメインでした。戦争相手国の軍用機と上空で遭遇した際には、パイロットは、手を振って別れていたと言われています。大戦が進むにつれ、敵国機と遭遇した際に投石するようになり、その後拳銃を使用するようになりました。

 

 ただ、この当時も飛行機の速度が高いことから拳銃の実用性は低く、敵機を撃墜することはありませんでした。その後、偵察機の操縦席の後ろに偵察席が設置され、パイロット以外の乗員が搭乗するように。その席に機関銃を装備して後方を射撃できるようになります。

 

大戦で一気に変わる戦闘機の役割 「機関銃」もその名残?

 

 当初軍用機に搭載された機関銃は、相手の飛行機を落とすために使用されましたが、第一次世界大戦の展開に合わせて軍用機の用途も拡大し、爆撃機などが生まれます。一方で戦闘機の機銃攻撃も、敵の軍用機だけでなく、建物、戦車、装甲車などの車両、歩兵などに射撃目標の範囲が広がっていったのです。ちなみにその頃、銃の設置方法も進化し、一般的に思い浮かぶような「機銃を使った“組んずほぐれつ”の空中戦」が展開されるようになります。

 

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何時ものヤフーさんから拝借

 

 第二次世界大戦においては、零戦零式艦上戦闘機)の場合、航空母艦に搭載されて、爆撃機攻撃機とともに目標へ向い、その間敵機から味方の軍用機を守るために開発されました。零戦は胴体上部に7.7mm機関銃、左右の主翼に20mm機関砲を搭載していました。一方、アメリカ海軍の艦上戦闘機や、アメリカ陸軍航空隊のP-51などが、日本各地を飛行して、機関銃で地上の陣地や車両などを射撃していた例がよく知られます。

 

 ちなみに、航空機に搭載される機関銃は、弾丸の初速が大きいこと、次の弾丸が放たれるまでのタイムラグが大きいこと、搭載量や重量の制限があること、故障しにくいことなどから、他の用途の軍用機ほど多くの種類はなく、その口径も7.7mm、12.7mm、20mmなどが主力となっていました。ちなみに、零戦の20mm機関砲は、スイス製の機関砲をライセンス生産したものを搭載しています。

 

   ※ ※ ※

 

 2度の世界大戦後のジェット戦闘機でも「機関銃(砲)」の搭載がスタンダードなのは、対空ミサイルは万能では無いこと、空対空戦闘が常に超音速飛行で行われるのではなく、空戦性能がある程度必要である――というのが理由です。

 

 現代の航空戦で想定される空戦は、領空侵犯してくる相手方の航空機であれば地対空ミサイル、もしくは、スクランブル発進した戦闘機が遠距離からミサイルを発射すれば迎撃できます。しかし、それ以前に、領空侵犯した航空機を視認したうえで、相手方の攻撃意図があるのか、民間機がさまよっているのかといった状況を判断する必要があります。

 

 また、相手方を攻撃しに行く場合、戦闘機には空対空ミサイルはせいぜい10基も搭載できず、命中率も悪いため、相手方の領空に侵入し、爆撃や機関銃で地上攻撃する味方の機体を守るためには、機銃も搭載していなければ任務を達成できません。

 

 また、超音速で飛行可能な機体であっても、実際に空戦で任務を果たすためには、亜音速で旋回、降下といった機動をする必要があります。F-4、F-111などの戦闘爆撃機タイプから、F-14F-15F-16などの空戦戦闘機が開発されました。最新のF-35もステルス性があればレーダーで見つからずに忍び寄れることなどから、そのあたりを考慮にして開発されたと思われます。

 

 つまり、現代の超音速ジェット戦闘機においても「大戦下の戦闘機の使い方」はいまだ健在で、「“組んずほぐれつ”の空中戦」が発生する可能性も、常に念頭に置かれているということでしょう。

種山雅夫(元航空科学博物館展示部長 学芸員)さんの記事でした。