法改正によりパワハラ防止の意識が高まっています。

 

取引先が無理難題「カスハラ」から部下を守るには?

2022年4/10(日) 

 

news.yahoo.co.jp

 

 ハラスメントや精神疾患、労働条件など、職場で起こるトラブルの原因はさまざまです。部下を持つ上司が、職場で問題を起こさないために知っておくべき知識とは何か。特定社会保険労務士の井寄奈美さんが具体的な事例を基に解説します。【毎日新聞経済プレミア】

 

 A子さん(48歳)は、アパレルメーカーの営業部長をしています。営業部に配属されて3年目に入るB恵さん(25歳)が最近ふさぎがちで、元気がないのが気になっています。

 

 B恵さんの直属の上司であるC太さん(36歳)に聞いてみたところ、「ひとり立ちをして1年。仕事に慣れて、良いことも悪いこともいろいろあるんだと思います。彼女はがんばってますよ!」とあまり気にする様子はありません。

 

 B恵さんは営業部に配属になったばかりのころ、A子さんのアシスタントをしていたことがあります。A子さんはその時と全く違うB恵さんの様子が気になり、昼食に誘い出しました。

 

 ◇顧客が無理難題

 

 昼食の場で、B恵さんに「最近、どうですか?」と聞いてみたところ、「自分の担当先を持つことができてやりがいがあります」「C太さんや先輩もサポートしてくれます」と言います。

 

 A子さんは「B恵さんの活躍は見てますよ。1年目で売り上げ目標が達成できているのはすごいですね。でも何か無理をしているのではないですか?」と聞いてみました。

 

 するとB恵さんは、一瞬下を向いて考えたあと、A子さんの目をまっすぐ見て「実は、退職した先輩社員から引き継いだ取引先のお客様から無理難題を言われて困っているんです」と打ち明けました。

 

 具体的には、その取引先は商品の発注はしてくれるが、そのあとの変更や、納期に対する無理が多く、先方の希望を通さないと、発注済みのものをキャンセルしてきたり、納品して間もない商品を返品してきたりするなど、報復と思われる行動をとるそうです。

 

 また先方が急いでいる商品の納期が少しでも遅れると、「値引きしてもらう。機会ロスの分はあなたにかぶってもらう」などと言ってきて、対応に困っているとのことでした。

 

 C太さんに相談しても、「お客っていうのは大なり小なり無理を言ってくるもんだよ」と相手にしてくれず、先方もC太さんの前ではよい顔をして、発注してくれるが、そのあとの変更や返品の対応はすべてB恵さんが対応せざるを得ない状況だということでした。

 

 ◇異動で別の部署に行きたいが

 

 B恵さんは、納品直前になっての大幅な数量変更など、対応しかねる時は、はっきり伝えるのですが、「前の担当者は対応してくれたのに、若い女の子はダメだね。もっと力のある人を、うちの担当にしてよ」などと言われたこともあるとのことでした。

 

 B恵さんは自分の担当先の仕事はきちんとやりたいと考えており、先方の無理を通すために、社内調整を必死でしているのに、「担当を代えてくれ」などと言われると心が折れる、お客様だからといって、すべて言うことを聞かなければならないのか疑問に感じている、営業の仕事が好きだけど、今は異動で別の部署に行きたいと考えている――とのことでした。

 

 A子さんはB恵さんが営業部にとって必要な人材と考えており、C太さんを呼んで早急に対応することにしました。ただ、自社の担当者を代えても、先方の態度が変わるとは思えず、いわば第二のB恵さんが生まれるだけです。先方の態度を改めてもらえれば一番よいですが、相手は取引先であり、どのように対応すればよいのか悩んでいます。

 

 ◇カスタマーハラスメントとは

 

これは「カスタマーハラスメント」が疑われる事例です。厚生労働省によると、カスタマーハラスメントとは「顧客からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」としています。

 

 厚労省は2022年4月から、中小企業も含めたすべての会社に対し、パワーハラスメント防止措置をとることを義務付けました。具体的な措置の内容はパワハラ防止指針に定められており、その中に、取引先など他社の労働者や顧客からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)についても、会社は雇用管理上の配慮をすることが望ましい(努力義務)としています。

 

 とは言え、顧客からの無理難題がすべてカスタマーハラスメントに該当するわけではありません。それぞれの業態により「商習慣」があります。B恵さんの事例であれば、発注後の変更や納期への対応など、取引上、通常生じうることだと考えられます。問題は「通常生じうる範囲」であるのか、「甘受すべき範囲を著しく超えているもの」なのか、ということです。

 

 取引には「マナー」があります。一般的に「お金を支払う方が立場が上」と考える人もいるようですが、仕入れがなければ自社の売り上げも立たないことを考えると、自社だけがよければよい、という姿勢は望ましいものとは言えません。

 

 仕入れ先の担当者に接する態度も、相手の人格を否定する発言をしたり、何か問題が生じた時に土下座を強要するなど、取引をするにあたり、優位な立場を利用して社会通念上、必要ではないと考えられる言動は慎むべきです。

 

 会社として、問題があると考えられる顧客については、「ここまでは対応する、これ以上は対応しない」という線引きを決めた上で、担当者にすべて背負わせないようにすることが必要です。毅然(きぜん)とした態度をとっても問題が解決しない時は、相手の会社と、そのような問題が生じていることを共有する必要があります。

 

 法改正によりパワハラ防止の意識が高まっています。自社内のみならず、取引先関係者との対応についても、注意を払う必要があると言えるでしょう。

 

 

 

 

 

『お客様は神様です』『お上には従え』『長い物には巻かれよ』日本の古い風習?!