「悪魔の3つの白い粉」
突然、呼吸困難に…心房細動で緊急搬送された35歳男性が大好きだった「悪魔の3つの白い粉」の正体
2022.5/16
健康で長生きするにはどうすればいいのか。心臓血管外科医の渡邊剛さんは「日本人の三大死因のひとつは心臓病。特に『悪魔の3つの白い粉』(食塩、砂糖、小麦粉)の摂りすぎは、心臓病のリスクを高める」という――。(聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)
日本人の三大死因をご存じでしょうか。厚生労働省の2020年人口動態統計(確定数)によると、1位は悪性新生物(がん)で年間死者数は37万8385人です。2位は心疾患(高血圧性を除く)での20万5596人、第3位は老衰の13万2440人です。最新の数字では脳血管疾患が4位となりました。
心疾患は心臓に起きる病気の総称で、心筋梗塞や狭心症などが知られています。虚血性心疾患と呼ばれていますが、この2つの原因は生活習慣、特に食生活の乱れが挙げられます。
動脈硬化や動脈瘤(りゅう)ができれば、血管が狭くなり血液の流れが悪くなります。これが心臓近くに起こると「狭心症」、「大動脈瘤」、「大動脈弁狭窄(きょうさく)症」を発症します。そうなるともう手術しかありません。これはわかりやすいメカニズムと言えるでしょう。
わかりにくいのが、「心房細動」という心臓病です。
これは心房内に流れる電気信号の乱れによって起きる「不整脈」の一種です。心房が痙攣したように細かく震え、血液をうまく全身に送り出せなくなる病気で、胸がドキドキする症状がサインです。動脈硬化の兆候が無くても、複雑な要因が絡み合い、ある日突然発症します。
最新の知見では、心房細動は睡眠時無呼吸症候群(SAS)、糖尿病、高尿酸血症などと関連して発症するとほぼ結論付けられています。心房細動はもはや生活習慣病のひとつとなったのです。
心房細動はかつては単独で引き起こす不整脈と思われていましたが、最近では冠動脈疾患と全く同じバックグラウンドで起こるつまり生活習慣病から起こるものが多いとされています。またなぜか睡眠時無呼吸をかなりの割合で合併することもありこれも生活習慣病の1つと考えられます。
心房細動が怖いのは、心房の中で「血液の固まり(血栓)」ができ、それが血流に乗って全身に運ばれ、血管を詰まらせてしまうことです。血栓が脳に飛ぶと脳血栓、肺に飛ぶと肺炎で死に至ることもあります。長嶋茂雄さんが脳血栓を発症し、懸命のリハビリを続けておられるのは有名です。
今回は、このような心臓病にならず、健康で長生きをするためにどうしたらいいか考えたいと思います。
心臓病最大のリスクは塩分――35歳心臓病患者の食事メニュー
心臓病の代表的知見として、「心筋梗塞、狭心症を招く8つのリスク因子」があります。①高血圧、②高コレステロール血症(高LDL血症)、③高尿酸血症、④糖尿病、⑤肥満、⑥ストレス、⑦タバコ、⑧家族歴(心筋梗塞、狭心症の親族がいる事)の8つです。
このうち高血圧など①~⑤は、食生活で改善することができます。長年、高血圧などが続くと、じわじわと血管が詰まり、ダメージがたまります。疲れ果てた血管が異常収縮し、心房細動や心筋梗塞、狭心症を引き起こすのです。
食生活で控えめにすべきは、圧倒的に「食塩」です。適量をはるかに超えた塩分を長い間摂っている患者さんは結構多く見られます。
当たり前のように食べている日々の食事は塩分過多になりがちです。過剰な塩分が慢性的な高血圧を招き、知らぬ間に心臓に大きな負担を与えています。
心臓病患者さんの塩分摂取は1日6gまで、とても少ない量です。ラーメン1杯で7gですから、6gは患者さんにとっては塩気が物足りなく感じます。多くの人は外食やコンビニ食の「塩分、脂肪分が濃くおいしいもの」に慣れていますから、なおさらです。
ある心房細動の患者さん(発症時35歳、男性、トラック運転手)は、主食はコンビニの菓子パン、外食のラーメン、焼肉でした。
仕事で移動の合間にコンビニで買ってダッシュボードに置き、休憩ごとに食べる。仕事帰りはラーメン店か焼肉店、または家でカップラーメンを食べる……という食生活を続けていました。
「自分は大丈夫」と思っていたようですが、まさに食生活の乱れによる心房細動の発症でした。
仕事でトラックを運転中に動悸(どうき)、めまい、脱力感、胸の不快感、息苦しさといった症状が出たそうです。「いつ事故を起こすかわからず、怖い」といって受診されました。当院では、身体への負担が少ない手術「カテーテルアブレーション」を行い、症状は治まりました。今では元気に安全運転されています。
心臓血管外科医が恐れる「悪魔の3つの白い粉」の正体
ドッグフードや犬用のおやつを試しに食べてみたことがありますが、ちっとも塩辛くありませんでした。犬に人と同じものを食べさせると、途端に結石ができたり、心臓病になるといいますから、本来、人間は塩辛いものを食べてはいけないのでしょうね。
なかなか厳しいですが、塩分を15gから6gにする食生活を心掛けてください。ちなみに、岩塩や藻塩など天然の食塩でも、工業生産された食塩でも、どちらでも塩分は同じです。体にいい塩も減塩醤油もたっぷり摂取しては意味がありません。
スイーツは美食につきものです。「スイーツ別腹」はダメ押しの至福のひとときです。50代前半の女性患者さんは、アフタヌーン・ティーでスイーツを食べ、映画を見た後にイタリアンでデザートまでしっかり食べるのが趣味でした。
たくさんの塩分、脂肪分、炭水化物に加えて、さすがに糖分を摂りすぎで肥満となり、心房細動を発症して来院しました。血液検査では血糖値が高く、すい臓の機能が落ちており、糖尿病も併発していました。画像診断では、臓器全体の血管が相当狭くなっていました。
糖分のなかでも、スイーツに大量に使われるショ糖(白い砂糖)は糖尿病にとって一番危険です。果物の果糖や黒糖、ハチミツのほうがまだ安全です。
食塩、砂糖、小麦粉は心臓病のリスクを高める
小麦粉が原料のスパゲティはイタリアンには外せないメニューです。炭水化物なのでたくさん食べると糖尿病になりやすくなります。
しかもパスタをゆでるのに大量の塩分を入れます。塩辛ければ塩辛いほどおいしく感じるからです。現代人は美食の塩分に舌、味覚が慣れています。さらに厄介なことに、小麦粉という白い粉ものは体の吸収が良く、太りやすいのです。
このように美食が習慣になっている人は、食塩、砂糖、小麦粉によって、生活習慣病、心臓病リスクが高まっています。そのため、「悪魔の3つの白い粉」と呼ばれています。
美食という仮面をかぶって、人の感覚をマヒさせ、体に悪い悪魔の働きをするのです。じっくりと長い年月をかけてダメージを与えます。ジェノサイド(大量殺人)というのは極論ですが、戦争よりもはるかに多くの人に、命に関わる悪い影響を与えています。
突然のことにドキッと驚いて「心臓に悪い」「寿命が縮まった」と言いますが、ハッとして病院送りになることはありません。「悪魔の3つの白い粉」のほうがはるかに心臓に悪く、静かに心臓に忍び寄るサイレントキラーになるのです。
非合法の薬物ではなく、水や空気と同様、日常摂取している当たり前の食材の所業。体に悪いものはおいしい、体に良いものは物足りないという究極の二律背反ですが、塩辛いのが当たり前という感覚だけでも、少し改めたほうが良いのは明らかです。
我慢ができないなら「毒を食べる日」をもうけよう
外食は塩分とともに脂肪分も高めです。焼肉はこれが顕著です。タレの塩分と肉の脂肪分が何とも言えずおいしく感じ、病みつきになるのですが、心臓病リスク因子である「悪玉コレステロール(LDL)」の数値を高めます。
悪玉コレステロール(LDL)が多い人や体内にLDLを作りやすい体質の人は、血圧130以上の高コレステロール血症、動脈硬化になりやすいと言われています。焼肉に合わせてビールを飲むことがありますが、ビールは痛風の原因となるプリン体が含まれますので気をつけましょう。
焼肉に限らず、総じて今のグルメブーム、お酒類と食材のマリアージュは、幸せを呼びますが、体に悪いもののオンパレードです。とはいえ大好きなおいしいものを我慢するのはつらいものです。
知人医師は「毒を食べる日」を週1回、土曜日に作っているそうです。悪魔の3つの白い粉も、心臓を脅かすメニューも気にせずに思う存分食べる。留飲を下げて、あとは健康な食生活を過ごすのです。
普段は野菜中心に魚、豆腐でたんぱく質を摂る。牛乳、肉など動物性脂肪を控える。肉ならささ身にする。寿司を少しだけ食べる。
納豆、味噌など日本古来の伝統的な発酵食品で免疫を上げる。これなら何とか長続きできそう、名案と思いました。今の食生活を見直し、少しでも人それぞれのうまい落としどころを見つけられるといいですね。
「人は血管とともに老いる」痛んだ心臓・血管は元に戻らない
心筋梗塞予防は、医学の進歩によって、新しい薬や治療で対処可能となってきています。そこで、ますます「心臓の老化」がテーマになりつつあります。そして、心臓の老化は血管の老化から始まります。
アメリカの医師、ウイリアム・オスラーは「人は血管とともに老いる」という名言を残しています。まさしく、人は血管がすべてです。年をとると血管は硬くなります。いわゆる動脈硬化ですが、太い血管から微小血管という細い血管に至るまで、血管が硬くなると血液を臓器に送る働きが、柔軟に対応できなくなります。
特に食生活の乱れでコレステロールが付着して血管が狭くなっている人は、心臓などの臓器に血液が健全に行き渡らなくなり、臓器の機能に大きな影響を与えます。大動脈狭窄症、狭心症の人は特に怖いです。
血管や心臓を鍛えるのは困難です。硬くなった血管は元に戻りません。いったん心筋梗塞になって痛んだ心臓は生き返りません。油を注せば円滑になるという機械のようにはいかないのです。「なんとか今の状態をキープする」、すなわち「予防」が大切になります。
しかし人は予防に鈍感で、遠い未来のことを切迫して考えません。地球温暖化や財政赤字を身近な緊迫したものと感じないことと同じです。
3日後に地球が滅亡するとなると危機感を感じますが、数年後に隕石(いんせき)が地球にあたり滅亡の危機、と言われてもピンときません。そんなことよりも目の前の1杯のお酒、1杯のラーメンに惹かれるのは人の本能です。
温暖化や財政赤字は国策に委ねるしかありませんが、心臓、血管の硬直化は個人で何とか対策を講じることができます。毎日の食事が最も自分でコントロールが可能です。さらに適当な運動を続け、「心臓に毛が生えた」ようにストレスにうまく対処し、タバコを少し減らせば鬼に金棒でしょう。
「自分だけは大丈夫」という油断は禁物
心臓病になるのは宝くじのようなものです。心臓病リスク要因が複数ある人は、当たる確率は高いでしょうが、それでも当たらない確率も結構あります。
ラーメンのスープを残さず飲み、焼肉にタレをいっぱいつけて食べ、悪魔の3つの白い粉をふんだんに摂り、タバコを山ほど吸って、肥満で運動不足でも心筋梗塞にも何の病気にもならない人がいます。
確実に心筋梗塞になるのであれば、食生活やタバコは気をつけるでしょうが、そうとも限らないので「自分は強運だから心臓病にはならない。好きなものを食べる。自分は特別」と考える方が多く見受けられます。
しかし「太く短く」生きようと思っても、医学は進歩しています。意に反して死ぬに死ねずに長生きします。
どうせ長生きするなら、死ぬまで元気に好きな旅行やスポーツ、趣味を続けたいですよね。そのためには、高血圧など「心臓病を招くリスク因子」を少しでも減らす食生活を心掛け、「命の鼓動」を守ってください。
渡邊 剛(わたなべ・ごう)さんの記事でした!
心臓血管外科医
1958年、東京都生まれ。心臓血管外科医、ロボット外科医(da Vinci Pilot)、医学博士。日本ロボット外科学会理事長、日伯研究者協会副会長。麻布学園高等学校卒業後、医師を志す。金沢大学医学部卒業後、金沢大学第一外科に入局する。海外で活躍する心臓外科医になりたいという夢を叶えるためドイツ学術交流会(DAAD)奨学生としてドイツHannover医科大学に留学。金沢大学心肺・総合外科教授、国際医療福祉大学三田病院客員教授などを経て、2014年にニューハート・ワタナベ国際病院を開院。著書に『医者になる人に知っておいてほしいこと』(PHP新書)などがある。
(心臓血管外科医 渡邊 剛 聞き手・構成=医療・健康コミュニケーター高橋誠)
追加(3回目)接種ではどのような副反応がありますか。2回目より重いのでしょうか。
世界における食品添加物の認可数は?
■食品添加物が許可されている種類
・アメリカ:133種類
・ドイツ :64種類
・フランス:32種類
・イギリス:21種類
■日本で認可されている食品添加物の種類
合計『約1500種類』もの添加物が認可
・指定添加物:約400種類
・既存添加物:約400種類
・天然香料:約600種類
・一般飲料物添加物:約100種類
我々の命が、あっちこっちから狙われていますよ!
お大事に!