エネルギー、水、廃棄物などのユーティリティ関連のデータについては、ほとんど統合はできていない

日本が海外に比べてあまりに遅れている…コロナ禍で国民皆が気づいた、「たった一つの恐しい原因」

 

2021年12/10(金) 

 

 

ニューヨークのタイムズスクエアは、日本企業の広告一色だった……。もはや都市伝説にすら聞こえる、日本の隆盛。日本のGDPおよび国際競争力が急速に低下した理由は何か。ヴェリア・ラボラトリーズ代表取締役社長の筒見憲三氏は書籍『データドリブン脱炭素経営』のなかで、その原因を考察しています。

 

コロナ禍、否が応でも気づいた「日本の遅れっぷり」

 

欧米先進国と比較しても日本の労働生産性が低いのは、日本企業のビジネスイノベーションに対する感度の低さと収益力のなさが主たる要因ですが、その根底には現場レベルでのデジタル化の遅れが密接に関係しています

 

2019年末より世界的な危機として予想外のコロナ禍が起こっており、現在も世界的に感染拡大が進行中ですが、わが国においても働き方を含めて大きな生活様式そのものへの変革が進んでおります。その中で図らずもの収穫は、日本社会全体においてデジタル化が遅れ、非効率な社会システムになっているという気づきを国民全体が得たことでしょう。

 

コロナ禍の克服に欠かせないワクチン接種において、他の国々と比較しても極めて時間がかかっていたことでも、国民全体が実感させられております。

 

菅政権に変わった際、デジタル化の遅れを取り戻すためにデジタル庁を新設して省庁横断的な取り組みを始めようとしたことは歓迎すべきことです。

 

国のみならず地方自治体レベルでのさまざまな行政システムにおいて、統合的な仕組みになっていないことは、結果として膨大なコスト増になり、われわれの生産性向上の阻害要因となっています。

 

そのような状況を招いたのは、さまざまな業務においてコンピュータシステムやソフトウエアを導入する際に、統一的な基本コンセプトがなく、それぞれの省庁や自治体の部局において、各ベンダーへの入札を経た調達がバラバラに行われた結果であることは容易に想像できます。

 

つまり、それぞれの行政単位で保有するデータ類に対しての互換性がなく、これではデジタル化による効率性の向上は望むべくもありません。今後、こうした現状をどのように変えていくか、かなり強権的な手法で進めていく必要があるでしょう。

 

デジタル庁は、大変な任務になろうかと想像されますが、トップである総理大臣が新設デジタル庁の新大臣をしっかりと支えてブレることなく進めてほしいものです。

 

実は、この状況とまったく同様のことは、さまざまな企業内でも起こってきました。

 

現場の悲惨な実態…「人海戦術でどうにかする」の末路

 

特に、事業所を全国、あるいは海外も含めて複数保有する大企業においてほど、それぞれの事業所におけるさまざまなデータ類を本社で一元管理できる統一的なシステム、データベース構築ができている企業はあまりないのではないでしょうか。

 

それぞれの事業所において、最適と思われる調達によってシステムベンダーが選定され、そのデータベースの構成にも企業としての統一はなく、会社全体としての互換性に難がある場合がほとんどではないでしょうか。

 

それでも売上や利益などの財務データについては、全社的な管理系の統合システムが導入されているでしょうが、例えば、エネルギー、水、廃棄物などのユーティリティ関連のデータについては、ほとんど統合はできていないようです。

 

「いや当社は必要なデータは本社に集まっているよ」という反論も聞こえてきそうですが、現場レベルにおいては、そうしたデータの収集とレポートづくりを人海戦術で行っているのではありませんか。

 

本来、集まったデータを分析し、その分析から無駄の改善・原価の低減や次なる施策への展開、さらには新しいビジネスの創出までを考えるべき優秀な人材が、単にデータの収集と経営層へのレポート作成に時間を費やしている現場になっているのでは。

 

このような現場レベルでのデジタル化の遅れは、どれほど自社の生産性向上の足枷となり、結果として企業としての競争力を削いでいるのか、企業経営者はこのことをはっきりと認識すべきです。

 

日本企業において、なぜこれほどデジタル化が遅れてしまったのか?

 

日本が「海外よりも遅れている」残念なただ一つの理由

 

日本企業には、自社のビジネスにテクノロジーを活かそうという意識が海外企業と比較すると低いのではないか、という意見を聞いたことがあります。

 

日本では、現場の人たちの経験や知見によってビジネスを円滑に運営し、売上を伸ばそうという職人的で、かつ属人的な対応が一般的でした。今でもこの風潮や雰囲気は、根深く日本企業には残っているのではないでしょうか。古い歴史のある企業ほど、その傾向が強いとも言えるでしょう。

 

こうした職人的・属人的な風潮や雰囲気がすべて悪いということではなく、日本企業の大変優れた良い面でもありますが、デジタル化という切り口から見ると、残念ながらこの点が阻害要因となってしまいます。

 

こうした古き良き特質によって日本企業は、市場が一定に拡大している局面では、この人海戦術的な現場対応力を大いに発揮し継続的な成長を達成することができました。

 

1980年から1990年初頭のバブル経済の崩壊までは、まさにこの路線で成長してきました。今となっては汗顔の至りですが、「この現場での擦り合わせ的な対応力こそが日本企業の強み」であると、筆者もビジネススクールのケース・ディスカッションの場で豪語した記憶もあります。

 

一方、デジタル化というのは、ある意味優れた日本企業の職人的、属人的な仕事の進め方に対して、すべてを定型化していくような逆の方向性であり、このあたりが日本企業での現場でデジタル化を受け入れ難い事情があったと推察できます。

 

また、本来デジタル化を担うべきIT部門は、企業内において他のビジネス部門と比較して失礼ながら地位が低く、バックオフィス的な扱いを受けることが多いとも言われています。

 

さらに会社全体として経営者がIT技術を多彩に活用してビジネス自体を伸ばしていこうという意識も希薄であり、収益を稼ぐビジネス部門とはあまり接点がないというような状況があり、顧客や市場のことはビジネス部門であり、IT部門はそこには口も出せないような雰囲気があるようです。

 

人材的には、企業内での大きなデジタル投資を進める時などは、通常は自社内での設計ではなくベンダー任せになることからも、デジタル技術の最先端を理解した優秀な人材は、社内のIT部門にはほとんどいないという説もあります。

 

さらには経営陣による大胆なデジタル投資への意思決定がなかなか進まないことも、デジタル化の遅れの大きな要因であるようですが、それは経営陣の中に最新の世の中の動向やデジタル技術自体への知見が乏しいため、社内的に力のないIT部門からの小規模な投資案件程度への決定に限定されてしまうことになってしまうのでしょう。

 

こうした日本企業のデジタル化の遅れは、さまざまな要因が複雑に絡み合っていますが、やはり一番大きな問題は、経営陣がグローバルな大きなデジタル化の潮流を見落としてきたという点が決定的ではないでしょうか。

 

企業経営者には、まずは自らの企業において上記のデータ統合のインフラが整っているのかどうか、自社のデジタル化がどの程度まで進行しているのか、しっかりした現状認識に基づいた冷静な経営判断と積極的な投資行動を期待したいところです。

 

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筒見 憲三さんの記事です!

 

愛知県犬山市出身。 1979年京都大学工学部建築学科卒業、1981年同大学院工学研究科建築学専攻修了後、 大手建設会社に入社。 1991年ボストン大学経営学修士MBA)取得。 1992年(株)日本総合研究所に転職。 1997年(株)ファーストエスコの創業、代表取締役社長に就任。 2007年(株)ヴェリア・ラボラトリーズを創業。代表取締役社長に就任し現在に至る。