国による手厚い助成措置が導入されている

増える耕作放棄地 日本農業復活の救世主はこれだ

2022年4/4(月)

 

news.yahoo.co.jp

 

 農林水産省は2月28日、「飼料用米多収日本一」コンテストの受賞者を公表した。見事日本一の座を射止めたのは秋田県横手市の稲作生産者で、10アール当たり973キログラムの収量を上げ、農水大臣賞を受賞した。

 

この飼料用米多収コンテストは6年前から行われているもので、趣旨は「飼料用米については、10 年後に60キログラム当たりの生産コストを5割程度低減させる生産性向上の取組が重要である。目標実現に向けて、飼料用米生産農家の生産に係る技術水準の向上を推進するため、生産技術の面から先進的で他の模範となる経営体を表彰し、その成果を広く紹介する」としている。

 

日本に欠けていた多収品種開発の視点

 

 日本の水田作の生産構造は、主食用米の作付が減少する一方で、飼料用米の作付が増加。2021年産は全水稲作付面積156万ヘクタールのうち、主食用は130万ヘクタールであるのに対して、飼料用米は12万6000ヘクタールに拡大している。

 

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 飼料用米の作付が拡大している背景には国による手厚い助成措置が導入されているからで、最高額は10アール当たり10万5000円も支給される。最高額を得るにはその地区の平均的な収量より多く収穫すれば1キロ当たり167円の助成金が上乗せされ、その最高限度額が10万5000円になることを意味している。

 

 こうした飼料用米増産政策の一環として飼料米多収コンテストが開催されている。多収穫を得るには栽培方法や品種選定が大きな要素を占めているが、中でも品種は重要だ。

 

 日本の稲の育種は過剰米時代に入ってから多収より食味重視に目標が移ったこともあって、多収穫米の育種研究は表舞台から遠ざかっていた。それが飼料用米制度が出来たことにより、飼料用専用品種の育種開発が進められ、主食用米に比べ大幅に収量の高い品種が次々に登場した。コンテストで農水大臣賞を受賞した生産者が栽培した品種も「べこあおば」と言う飼料用専用品種なのである。

 

復活が進められている「再生二期作

 

 その多収穫米について、コメを「再生二期作」という栽培方法で多収しようという試みがある。

 

 再生二期作とは聞きなれない言葉だが、稲は一度刈り取った後に、切り株をそのまま放置しておくと、そこから再び穂が出て来て実を付けるという性質がある。この二番穂のことを「ひこばえ」と呼んだりする。漢字では「蘖」という難しい字だが、今ではコメ業界関係者でも知らない人が多い。

 

 それは昭和40年代後半からコメ余りの時代を迎え、わざわざ二番穂を収穫する必要が無くなったことにある。二番穂を収穫しようという農家はほとんどいなくなったが、試験場レベルでは研究が続けられていた。

 

 農研機構九州沖縄農業研究センターは2年前に水稲再生二期作栽培方法で10アール当たり1.5トンと言う飛躍的に高い収量が得られると発表した。農研機構が試験場レベルで栽培している飼料用多収穫米でも最高収量は1053キログラムなので、約1.5倍多い。

 

 九州沖縄農業研究センターによると、九州は春や秋の気温が高く、水稲の生育期間が長いこともあり、収穫後の秋になっても二番穂(いわゆるひこばえ)が発生する。こうした気象条件を生かし、栽培や収穫方法を工夫することにより、同じ圃場で年2回収穫、単位当たりの収量性を高めた。

 

 同研究センター水田作研究領域の中野洋チーム長は、品種を多収性品種のべこあおばと北陸193号を交配した雑種一代とし、4月に田植えして1回目を8月に収穫、2回目を11月に収穫した。栽培、収穫のポイントは、肥料を1週間ごとに投入(10アール当たり37キログラム)するという多肥と、収穫の際に地上から50センチの高さで刈り取ること。切り株を多く残すことは非構造炭水化物を残すことで、これによって二番穂の籾数が減少しなかったという。また、1回目の刈取り時期も重要で、早く刈った稲では二番穂の収量が10アール当たり430キログラムあったという。

 

 農研機構では、地球温暖化で春や秋の気温が上昇しており、生育期間が一層長くなると予想されることから、再生二期作により単位当たりの収量性を上げ、低コスト栽培することで加工用米や業務用米生産に貢献できるとしている。

 

東北の地でも始まる実証テスト

 

 この再生二期作栽培方法によって加工用米や業務用米ではなく、バイオプラスチックの原料になるコメを生産しようという試みが今年、福島県浪江町で始まる。

 

 実施主体は、バイオマス資源を利用したプラスチック樹脂原料の製造・販売および研究開発を担うバイオマスレジンホールディングスのグループ会社で、コメ作りのために昨年設立されたスマートアグリ・リレーションズ(福島県双葉郡浪江町、中谷地美昭社長)である。

 

 同社は昨年、浪江町の水田4ヘクタールでコメ作りを行い、30トン生産した。今年は一気に50ヘクタールに面積を拡大。その中で低コスト稲作の一つの手段として再生稲の実証栽培テストを行う。

 

 使用用途がプラスチックの原料になるバイオマスレジン生産のため、「収量を最大限アップする」ことを最大の目標にしている。このため低コスト栽培方法として再生稲栽培だけでなくドローンによる直播(じかまき)など最新の栽培技術を取り入れる計画を立てている。

 

 「生産性や効率化を考えると年2回穫れた方が良い」と言う中谷地社長の判断でこの実証テストをはじめることにした。具体的には最初に植えた稲を収穫する際、株を20センチから30センチ残し、それに二番穂が実るようにして11月に刈取り作業を行うことを考えている。

 

 ただ、ここで問題になるのは、福島県は九州のような温暖な産地ではないため、果たして二番穂が実るだけの気象条件が得られるかという点にある。農研機構九州沖縄農業研究センターの中野洋グループ長補佐は、「ハードルは高いがチェレンジしたい」と、取組に協力している。

 

耕作放棄地の有効活用も視野に

 

 この再生二期作の実証テストが注目される理由は、単に新たな栽培方法で単位面積当たりの収量を高めることだけに留まらず耕作放棄地で工業用の原料米を生産する」ことにある。

 

 日本のコメ作りは1972年から続く減反政策で、本来最も重要な多収栽培の技術が衰退したことに加え、耕作放棄地が増え、生産者の高齢化で離農者も急増、生産基盤そのものが急激に弱体化している。

このままでは自給率向上どころか国民が必要とする食糧が賄えないという事態も想定される。

 

 中野グループ長補佐は「中国では再生二期作が20万ヘクタール規模に拡大している」と指摘しており、自国の穀物生産の向上は国家的な課題になっている。はからずもウクライナ情勢で世界的に穀物価格が上昇、日本でも4月から小麦の価格が17%も値上げされるという事態になっている。さらに円安が進み、海外から安い食料を買えば良いという状況ではなくなりつつある。

 

 わが国の水田は、稲作が日本に伝播して以来、先人が営々として築き上げたかけがえのない資源であり、そのことは各地にある棚田の景観を見れば容易に想像できる。その水田の有効活用は今日の世界情勢を見れば最も重要な課題と言える。

 

 そこに新たな需要としてバイオプラスチックが生まれた。バイオマスレジンホールディングスはライスレジンからさらに進化した生分解性プラスチックの研究・開発も進めており、その商品名は「ネオリザ」と名付けられている。

 

 この商品は自然界に存在する微生物の働きにより、土に返せば二酸化炭素(CO₂)と水に完全に分解されるというもので、海洋汚染問題を解決できる究極のバイオマスプラスチックである。同社の説明によると、ライスレジンは複合性の素材であり生分解はしないが、ネオリザはバクテリア等の働きのより土の中で完全に分解するため農業用マルチフイルムにも使えるほか、釣り糸や漁網使えるという。製造方法は公表されていないが、ネオリザが全てコメで出来るようになれば、その需要は計り知れない。

 

 コメの用途として主食用や食品加工原料だけでなくこうした工業用原料にも使えることは新たな用途として需要拡大に貢献できる。かつ食味を追求する必要がないためその分栽培がしやすく耕作放棄地の有効活用に繋がる。

 

熊野孝文さんの記事でした!